映画『四月になれば彼女は』のために、
主題歌「満ちてゆく」を書き下ろした藤井 風。
彼にとって劇映画初となるこの楽曲の背景には、
MV「青春病」の監督でもある
山田智和との縁、そして原作者、
川村元気とのめぐり逢いがあった。
新たなる名曲誕生について、
川村が藤井に訊いた。
川村 最近は顔を見せずにパフォーマンスする人気ミュージシャンも多いけど。
藤井 曲のパワー、声のパワーであそこまでいくの、ほんとすごいですよね。
川村 風くんのライブ行ったけど、ステージが小ぶりで良かったです。
藤井 わしは表情頼り。見せてなんぼっていうか。
川村 それはセリフを言うみたいな感じなのかな?
藤井 それに近いかもしれないです。一種、演じてるようなところもあるのかな……
川村 「何なんw」(2020年)とか、(歌詞がもう)セリフだもんね。風くんの歌には物語を感じる。お芝居というか。歌詞を読んでいると、本人の言葉なのか、それとも別な人格? と考えてしまう。今回は映画という物語が間にあるわけですけど、どんな曲作りになったのかなと。
藤井 作詞、どうやってるのか、いまだにわかんないんですよ。そもそも作詞から(の曲作り)は絶対にない。
川村 曲先(キョクセン)なんだ。
藤井 曲がないととてもじゃないけど言葉は浮かんでこない。両方同時っていうのはありますけど。だからメロディに導かれて、としか思えない。自分以外の力が働いている気しかしない。わしが、こんな真面目なこと言うわけないやん! とか思いますよね。
川村 歌詞を書いてて。
藤井 こんなことを核となるテーマに、歌にしていく人になるとは全然思ってなかった。もっと、学生時代普通に聴いてた〝青春、友達、イエーイ!〟みたいなことを歌にしていくのかなーって思ってたんですけど。
川村 今回、メロディはどうやって誕生したんですか。
藤井 物語を貫いている空気感みたいなものにインスパイアされて。(これは)自宅で書くもんじゃないなと。どこかつーんとした、それでいて神聖で、崇高な場所で書きたいと思って、教会で書かせていただいたんです。映画のエンディングのところでストップして。(その後)どういう音楽が鳴ったら、この物語の邪魔をしないだろうか。それを考えながらピアノに向かいました。
川村 教会をお借りしたということは、数時間であのメロディを書いたの?
藤井 そうです。
川村 すごい……いつもそんな短時間で書けちゃうものなの?
藤井 曲にもよりますね。めちゃくちゃ時間かかる曲もあります。けど最近はするすると出てきてくれることも増えて。
川村 これは原作小説にも映画にも出てくる描写だけど。教会では結婚式もするしお葬式もするんですよね。僕はそれが偶然じゃないと思っていて。人間が死んでしまうことと、誰かへの愛を誓うこと=愛することって、結構近い距離にあるんじゃないかなと。
藤井 映画のクライマックスのシーンには、小林武史さんのパイプオルガンのサウンドトラックが付けられているじゃないですか。きっと教会に行けば、この作品を貫いている世界観に合ったものが出てきそうと直感的に。
川村 数時間で曲を書き、そこから歌詞に取り組むの? それは次の日?
藤井 当日でした。
川村 すごい! そんなイタコみたいに降りてくるの??
藤井 メロディは1時間もかかってないかも。
川村 マジか!!
藤井 いやいや。作る頻度が少ないんで。作ろう! と思わないと出てこない。
川村 じゃあ、降臨させる感じだね。
藤井 教会入った時も祈りました(笑)。書けますように。降りてきますように。そしたら歌詞もすらすらと……でも、その後、川村さんからアドバイスをいただいて。
川村 ちょっとだけね。
藤井 ブリッジを追加するという提案をいただいて、すごくすんなり入ってきて。そうだよねって。そこは自宅で作業したんですけど、全然苦労した記憶がなくて。ピタッと出来てくれて。川村さんに言っていただいたことで、やっと完成したと思いました。
川村 藤井 風の歌詞を読んでいると、曲が死というものに近接する瞬間がすごくある。そこでハッとして、そこからまた生き返るというか、戻ってくる感覚がある。それがすごく好きなんです。
藤井 歌詞で言うと、川村元気さん、一曲、作詞されてますよね?
川村 わ! やば!!(汗)
藤井 あの歌詞、僕、衝撃的で。僕のデビュー前に、僕がずっと言ってきたこと全部言ってる人いた、っていう感じでしたよ。
川村 合唱コンクール(NHK全国学校音楽コンクール)のための曲でしたね。
藤井 「僕が僕を見ている」(2019年)。まさに僕が歌ってきたような死生観を先に……
川村 いやいや、恐れ多いです……(笑)
藤井 だから、ここにきて川村さんと一緒に仕事をさせてもらえるっていうのも、導かれてるなって。あの歌詞を見て、より感じました。
川村 子供の頃から、自分が死んだらどうなるんだろう? とたまに空想する人間でした。エンディングがあるから、今をどう生きるか。目の前の人をどう愛するか。学生たちがそれを自覚するだけで、目の前の景色がちょっと変わるんじゃないかなということを書いた歌詞でした。考えてみると、僕が藤井 風の曲を聴いてハッとするのは、死を感じさせながら今生きていくことをカラフルに見せてくれるところでもあるんですよね。
川村 曲のタイトルが素晴らしいなと思っていて。「満ちてゆく」はどうやって出てきたんですか。
藤井 もう……憶えてないんですよ。でも川村さんに最初に話させてもらった時、物語が終わった後、この二人の行方を明るく照らしてほしい、というニュアンスの言葉をいただいて。そっちでいいんだと思った印象があります。映画を拝見した後は、すごくニュートラルなもの、明るくも暗くもない、ポジティブでもネガティブでもない曲なのかなと思ったりもしてたんですけど、観る人をできるだけ明るい方向に導いてほしいと。今となっては後づけですけど「満ちてゆく」という言葉は、映画の派手ではない、静かなポジティブさが感じられる言葉かなと思ってまして。静かに明るくなれる。静かだけど確かなポジティブさ。(言葉は)ただ出てきてくれたので、説明とかできないんですけど。
川村 曲を聴いて、まず月を想像したんです。月は満ちたり欠けたりするし。たとえば日食では太陽と月が重なるわけですが、誰かと誰かの気持ちが等しく重なることは本当に日食みたいに奇跡的なことで。いつか避けがたくズレていくとしても、重なっているというモーメントがとても重要だなと。あと、海。当然、潮の満ち引きという意味も感じたし。もちろん、心が満たされるということも。これ、どれだけミーニングがかかっているんだろう! って。ビジュアル的にも、エモーション的にも、重層的に色々な意味が入っているなと。その説明が聴けるなと思ったら……(笑)
藤井 そういうことにしてほしいです(笑)。はっきりとは知覚できない部分なんですよ。
川村 ところで山田智和くんって少年みたいな監督ですよね。9年前に仕事をしたんだけど、20代のその頃から何も変わらない。「青春病」(2020年)のMV大好きで。あれは俳優・藤井 風として僕は見ている。大学生を演じている気がしました。「満ちてゆく」のMVはその続きかなと期待しているんです。
藤井 2作に共通して言えるのは、すごく感情を揺さぶってくる監督だということですね。山田監督は限界を超えさせる。でもおかげで芝居を超えたリアルなところを引き出された。「青春病」は自分でも説明できないような感情がめちゃくちゃあふれてきちゃって。泣いちゃったんですよね、撮ってる時に。山田監督本人が全力だから。あんなに無邪気にピュアにやっているなら、こっちも同じくらいピュアについていきたい。ほんと不思議な人。とにかく純粋だということは感じますね。
川村 彼が撮った映画はどんな印象ですか?
藤井 やっぱり景色が印象に残りましたね。
川村 ああいうふうに海外の景色を撮れるディレクターはあんまりいない。
藤井 だから「満ちてゆく」のサビも「明けてゆく空も暮れてゆく空も」になったのかもしれない。空=景色がサビアタマにくるって、僕はあまりないんですけど、色々なところを旅している主人公たちだからこそ、情景描写的な表現もインスパイアされたのかなと思います。
川村 確かにこの映画、大事なシーンで必ず空が絡む。主題歌はサビの最後のところで「手を放す、軽くなる、満ちてゆく」がくるんだけど、この言葉の選択がすごいと思いました。
藤井 「手を放す」という描写をネガティブに捉えたくないという思いから、「軽くなる」に繋げたんだと思います。「軽くなる」って僕、ポジティブな言葉だと思ってます。みんなに軽くなって欲しいなと思うことの方が多いんで。
川村 今という時代、この言葉に救われる人がいっぱいいると思う。
藤井 「愛を終わらせない方法。それは何でしょう?」というセリフで予告編が終わるじゃないですか。わしだったら何て答えるだろう? ってなりますよね。その答えを気にしながら、映画を観ていました。そして(その答えに)すっきりしました。映画の基となるテーマと(自分の曲が)ほんとシンクロしたんだと思います。
川村 初めて恋愛と向き合ってみて、発見したことはありますか。
藤井 ラブバラード。これが一つ、大きなキーワードになるだろうなと思って進めていったんです。一般的な意味の「ラブ」というものにも、「バラード」というものにも、ちゃんと自分の音楽で向き合ったことがなかったから。でも向き合ってみて思ったのは、今まで表現してきたものと変わらなかったということ。結局は同じところに行き着いちゃいました。
川村 僕は、人間が生きて死んでいくことを風くんが歌ってくれたら、それは恋愛の歌になるかもしれない……ということを想像していました。
藤井 咲いては枯れるとか、始まって終わるとか、そういうところを超えたところに行きたいし、探しつづけたいと思っているんです。その先を目指す、みたいなことをみんなにもシェアできれば、生きやすくなる人がいるのかなと。
川村 僕は、風くんのこと、音楽と芝居が一体になっている人だと思っているから、今回一緒に仕事をしてみて、これからの「藤井 風劇場」がますます楽しみになりました。
Cast : Fujii Kaze , Genki Kawamura
Photography : Yosuke Kamiyama
Writer : Toji Aida
Special Thanks : Team Fujii Kaze